Miyako dori
安政二年(1855)六月
作詞:伊勢屋喜左衛門(?)
作曲:二代目 杵屋勝三郎
君なつかしと都鳥 ──
── 幾代かここに隅田川
歌詞
〈本調子〉
たよりくる 船の内こそゆかしけれ
君なつかしと都鳥 幾代かここに隅田川 往来の人に名のみ問はれて
花の蔭 水に浮かれて面白や 河上遠く降る雨の 晴れて逢ふ夜を待乳山 逢うて嬉しき
あれ見やしゃんせ
翼交はして濡るる夜は いつしか更けて水の音 思ひ思うて深み草
結びつ解いつ乱れ合うたる夜もすがら はやきぬぎぬの 鐘の声
憎やつれなく明くる夏の夜
解説
安政2年(1855)の二世杵屋勝三郎の作で、長唄の端唄とでもいえるものです。
作詞したのは伊勢屋喜左衛門という札差(金融業)ですが、なかなか粋なセンスの遊び人だったようです。
梅若伝説にもとづく謡曲の隅田川物の一つで、最近あまり演奏されない「賎機帯」も同じ部類に入ります。
都鳥とは、今モノレールの名前にもなっている「ゆりかもめ」のことだそうです。
旅の人があの鳥は?と問いますと都鳥だという。
そこで今日に都に残した家人のことを思うというプロローグがあり、向島あたりの舟遊びの情景が巧みに映し出されている曲です。
「翼交わして」というのは、都鳥にかこつけて思いあう心が深くなるという、会う嬉しさというものを表しています。
「憎やつれなく」「鐘の音がして、つれなく明ける夏の夜」というラストシーン。
もー、どうぞご勝手に♡という感じでしょうか。
ところで、この曲ができた安政2年の6月から4か月後に「安政の大地震」が起きて江戸は壊滅状態になりました。
そうした意味で、この曲は古い江戸を表現した最後の曲という歴史的な意義もあります。
この1年前にはペリーが再来日しています。
以後幕末の混沌とした時代が始まるのです。
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